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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1338号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人佐々木良一、同坂野英雄の上告趣意第一點について、

昭和二二年政令第六二號(教職員の除去、就職禁止等に關する政令)第三條第一項には「教職に關する覺書に掲げる職業軍人、著名な軍国主義者若しくは極端な国家主義者又は連合軍の日本占領の目的及び政策に對する著名な反對者に該當するものとしての指定を受けた者(以下教職不適格者という)が教職に在るときは、これを教職から去らしめるものとす」と規定し、同第二項には「教職不適格者は、あらたに教職に就くことができない」と規定している。そして同政令第四條には「教職不適格者としての指定は、主務大臣又は都道府縣知事が別に定める教職員適格審査委員會の審理の結果に基いて、これを行う」と規定しているのである。してみれば同政令により教職から去らしめられ、又はあらたに教職に就くことを禁止されるためには、主務大臣又は都道府縣知事により、教職員適格審査委員會の審査の結果に基いて教職不適格者として指定されたことを要し、たとい教職に關する覺書に掲げる職業軍人その他覺書に該當する者であっても、右手續を經て教職不適格者として指定されない者は當然には教職から去らしめられ又はあらたに教職に就くことを禁止されるものではない、と解すべきである。このことは、右政令の施行規則である昭和二二年五月二一日文部、外務、司法、遞信、厚生、内務、大藏、運輸、農林省令第一號第一條第一項で「政令第六二號第四條の規定による委員會の審査は別表第一を判定標準としてこれを行うものとする」と規定し、右別表第一には、その八に「昭和二一年一月四日附連合国最高司令官覺書「公務從事に適しない者の公職よりの除去に關する件附屬書A號」に該當する者及びその他すべての職業軍人」と掲げて職業軍人であることを教職不適格者として指定するか否かを判定する一つの標準としていることに徴しても、明らかである。

してみれば被告人が教職に關する覺書に掲げる職業軍人であるとしてもただそれだけで右政令にいわゆる教職不適格者であるとは斷定し得ないものであり、從って直に教職に就くことを禁止されたものとはいえない。然るに原判決は、被告人が右政令第四條の規定により教職不適格者として指定されたか否かを確定せず、教職に關する覺書に掲げる職業軍人であり從って當然右政令第三條にいわゆる教職不適格者であると判示し、被告人が原判決摘示第一乃至第四の行爲をしたことに對し同政令第八條第一號前段を適用處斷したのは、法令の解釋を誤つた違法があり、且つ右法令適用の前提たる教職不適格者としての指定があったか否かの事実を確定しない審理不盡の違法あるものである。論旨は理由がある。

以上の次第であるから、辯護人佐々木良一、同坂野英雄のその餘の上告趣意、辯護人福田庫文司の上告趣意、同久留義郷の上告趣意、同牧野進並同福田庫文司の上告趣意に對する判斷を俟つまでもなく原判決は破毀を免れない。そして右の點についてなお事実の確定を要するから刑訴施行法第二條舊刑訴第四四七條第四四八條ノ二に則り主文の如く判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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